大判例

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東京地方裁判所 昭和29年(モ)220号 判決

当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第八三〇六号債権仮差押申請事件につき、同年十一月十一日なした仮差押決定はこれを取消す。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することを得る。

二、事  実

申立人代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その理由として、

「本件当事者間の昭和二十八年(ヨ)第八三〇六号債権仮差押申請事件につき、被申立人は昭和二十八年十二月十六日起訴命令の送達を受けたが、その定める二週間の期間を経過しても未だ本案訴訟を提起しないので、右仮差押決定の取消を求めるものである。尤も、被申立人は昭和二十八年十月十七日申立人に対し東京地方裁判所に破産申立をなし昭和二十八年(フ)第二九三号破産事件として係属中であるが、破産手続において破産者が異議を述べるときは(申立人は異議を述べる所存である)破産債権は確定せず債権確定のための訴訟の開始を必要とするものであるので、右破産申立は民事訴訟法第七百四十六条にいう本案の訴に当らないのである。なお、被申立人は昭和二十八年十月十七日訴外甘利産業株式会社に対し破産申立をなし同会社の債権及び有体動産は破産法第百五十五条により仮差押決定がなされたのに、申立人に対する前記破産事件においてかような仮差押決定なく、裁判所はこれを許容しなかつたものと考えられる」と述べた。

被申立人代理人は、適式の呼出を受けたのに、本件口頭弁論期日に出頭せず且答弁書その他何等の準備書面をも提出しないものである。

三、理  由

被申立人が昭和二十八年十月三十一日申立人に対し「被申立人は訴外甘利産業株式会社に対しビニールシート及びフイルムを販売しその代金支払のため右会社振出の約束手形六通金額合計金千三百六十万二千三十三円の交付を受け現にその所持人であるが、右会社の代表取締役である申立人は昭和二十八年九月十七日被申立人に対し右会社の債務一切につき保証をなしたものである。よつて、被申立人は申立人に対し右債務の支払を求めるため本案訴訟の提起を準備中であるが、内金千三百万二千三十三円の執行保全のため別紙目録<省略>記載の申立人の債権の仮差押決定を求める」旨申請し、当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第八三〇六号事件として同年十一月十一日別紙目録記載の申立人の債権につき仮差押決定をなし、申立人より起訴命令の申立があつて当裁判所が同年十二月十一日被申立人に対し決定送達の日より十四日内に本案訴訟を提起すべきことを命ずる決定をなし、その決定正本が同年十二月十六日被申立人に送達されたことは、本件記録に照し当裁判所に明なところであり、被申立人が破産申立をなしたるも本案訴訟を未だ提起しないこと等の申立人主張事実は被申立人において明に争はないので被申立人において自白したものとみなすべきである。

よつて案ずるに、仮差押により生じたる関係は浮動状態にて、実体的にこの状態を除却するものは保全せられたる請求権の裁判上の確定にあり、この浮動状態を除却するため民事訴訟法第七百四十六条において、債務者に起訴命令申立の権利を与えたものと考えるべきを以て、同条に本案の訴とは仮差押を以て保全せんとする債権自身についての裁判上の確定のための訴訟法上の手段をいうものと解すべきにして、訴の提起、支払命令の申立等債権の存否を判断する手続の開始を以て、同条にいう本案の訴の提起に当るものというべきも、債権者の破産申立の如きは、破産原因の存否を判断し破産宣告を求める手続開始の申立にとゞまり、その債権が確定するためには、破産宣告後更に債権者においてその債権を届出で破産管財人及び破産債権者において異議なき場合に限り確定するほか、更に訴を提起するにあらざれば、これを確定するに由なきを以て、破産申立を以て仮差押により保全せらるべき債権自体についてその存否を確定する手続の開始を求める申立の性質を有するものと解するに由なく、またこれにより前記浮動状態を除却するに足るものと考えるに由ない。尤も、かように考える時は、破産申立の後仮差押決定のある場合或は仮差押決定の後破産申立のある場合において、債権者において更に訴の提起支払命令の申立その他債権の存否の確定の手続の開始を求めない限り起訴命令期間の徒過により仮差押決定が取消される結果となり、仮差押決定を維持せんとする限り債権者に二重の手続を強いる結果となることは否定し得ないが、破産申立の場合において特に破産法上の保全手続が認められ、また破産申立後においても訴の提起その他債権確定の手続の開始を求める申立の許される事情及びこれらの申立或はその債権保全のための仮差押決定が破産宣告によつてはじめて左右される事情を考えるときは、破産申立と破産法上の保全手続は、債権確定の手続の開始を求める申立及びその債権の保全のための仮差押手続の一場合として定められたものと考える余地なく、これらとは全く別個のものにして、一方を以て他方に代える余地のないものと考えるほかなきを以て前記判断を左右するに足りない。

而して、前記仮差押決定につき本案の訴の提起なきこと前記の通りであるので、右仮差押決定を取消し訴訟費用並に仮執行の宣言につき民事訴訟法第八十九条第九十五条第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 脇屋寿夫)

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